ベジタリアンにはガンが少ない

この意味では、菜食主義者の食事は大いに参考になります。先ず、各個人の事情に応じて、出来るだけ肉類から野菜類への食べ物を変更することです。これだけでもガンのリスクを半減できます。特定のガンに対してはなんと75%も減らせます。

でも、これはまだまだスタートに過ぎません。これからが大切なところです。どの果物とどの野菜に最も強い抗ガン効果があるのかが判れば、当然だれでもそのように自分の食生活を変更することができます。そして、ガンのリスクをさらに低下させることが出来るわけです。前立腺ガン、乳ガン、胃ガン、肝臓ガン、結腸ガン、口腔ガン、食道ガン、卵巣ガンなどの多くのガンが、ただ果物と野菜の摂取を増やすだけで大幅に減少するにもかかわらず、ある国では他国と比べて、これらのガンの発症例が、少ない国に比べて20倍も多い、というのは嘘も隠しもない事実なのです。この事実から容易に推定できるのは、このようなガン発生率の少ない国の食習慣を研究すれば、前述した各種のガンのほとんどから逃れることが出来ると考えても良いはずです。

さらに言えば、果物と野菜に、ガンを防ぐいかなる秘密が含まれているのかが判りさえすれば、果物と野菜の品種改良をして、その「秘密」をもっと増やすことも技術的には可能なわけです。この場合の品種改良は、ここしばらく行われてきたように生産量増加、あるいは病害虫に強くすることを目的とするのではないことは言うまでもありません(第1章参照)。果物と野菜がどうしても嫌いな人は、少なくとも、このようにして品種改良した果物と野菜から抽出した「秘密」を豊富に含んだ錠剤あるいはカプセルを摂取すれば、ガン予防という目的は果たせるわけです。大手の製薬会社は、そういう事業にはあまり関心を向けません。多分、それは特許が取れないのが理由と思われます。むしろ、彼らの関心は、特許で守られた「類似物」としての化学合成物を製造して、それを市場に向けて販売することにあると思われます。そして、そういった製品は、おそらく今世紀中には販売され始めるのでしょう。

すでに第8章でも1部は述べましたが、植物に由来する抗ガン性の化合物は数多く同定されています。さらに、それらは、そのそれぞれが持つ抗ガン性のタイプによって、いくつかの異なったグループに分類されています。そのグループの分類の仕方については、科学者によって見解を異にするところもありますので、これから述べる事柄には一種の妥協による見解も含まれてしまいます。その点はあらかじめお許し願いたいと思います。いずれ科学がもっと進歩したあかつきには、おのずと整理されていくと思います。いずれにしても、これから述べる事柄は、少なくとも読者にとって、これからの食習慣を変えていく上で、それなりのガイドラインとして役に立つと思います。

第1に、いわば古典的と言える抗酸化物質があります。これらは放射線や毒性物質によって身体の中で発生する活性酸素を無害化するものです。このグループには、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKとビタミンBの中のいくつかが入ります。それにコエンザイムQ10とアルファ・リポ酸も同じグループに入ります。フラボノイド類の多くと、少数のカロテノイド類も同じです。カロテノイドの中でもっとも良く知られているのはベータカロチンだと思います。

抗酸化物質の予防効果について大規模介入テストとして研究者にもっとも知られているテストの1つに、中国で行われた林県(リンシャン)テストというのがありますが、3万人の男女を対象として行われた壮大なものです。実験目的として投与された抗酸化物質の数が多く、次のようなものでした。ビタミンAと亜鉛、あるいはビタミンB2(水溶性ビタミン、リボフラビンとも呼ばれる)とナイアシン(水溶性ビタミン、ニコチン酸とも呼ばれる)、またはビタミンCとモリブデン、さらにはビタミンEとベータカロチンおよびセレニウムでした。栄養素の組み合わせとしては少々奇妙であり、投与量も比較的少量でしたが、結果としてガンによる死亡例は13%の減少を示しました。この臨床テストの価値には、残念ながら少々問題があり、先進国には参考例としての価値があまり多くは認められないという点があります。というのは、林県という地域は栄養状態が悪く、特に発ガン率、中でも胃ガンと食道ガンの率が非常に高かったのです。その意味では、栄養状態の異なる他国についての参考としては少々問題なわけです。

テスト対象の人数は少なくても、もっとわれわれにとって抗酸化物質の効果について参考になる他の例はもちろん数多くあります。たとえば、ビタミンCの大量投与が消化器系ガンのリスクを、おそらく発ガン性のあるニトロソアミンの形成を阻害することによって、減少する例があります。栄養補助剤としてのビタミンEが口腔ガンのリスクを減らしたテスト例もあります。これらのテストが行なわれた背景には、当然ながら、ベータカロチンやビタミンEその他の抗酸化物質の摂取不足とガン罹患率との因果関係への証拠に基づく基本認識があったことは言うまでもありません。

薬物ではなく、食品として、ガン予防物質の第2のグループには酵素誘発物質があります。これらの化合物には、体内の解毒酵素の生産レベルを高める働きをします。これらの1部(フェーズ一酵素)は活性酸素を無害化します。この活性酸素を無害化する働きは他の酵素(フェーズ二酵素)にはありませんが、このフェーズ二酵素は潜在的発ガン物質の体内からの除去を促進する働きをします。このフェーズ二酵素には、たとえばキャベツやブロッコリに含まれる物質で、スルフォロフェン(Sulphorophane)と呼ばれる化合物があります。体内で活性酸素が増加した場合、それが喫煙であろうと運動であろうと、あるいはまた感染であろうと、その原因は問わず、身体は抗酸化酵素の生産量を増加してこれに対処しようとします。しかし、この抗酸化酵素の生産には、セレニウム、亜鉛、マンガン、銅などの微量金属元素を必要としますので、これら微量栄養素が不足すると、抗酸化酵素を必要なだけ生産できないというわけです。

第3のグループは、体細胞の内部で壊れやすいDNAを優しく包んで物理的な防壁として外敵からDNAを守る化合物です。この役目をするのはフラボノイドと思われます。

第4グループは発ガン物質と直接的に結合して、その体外排出を早める働きをするものです。これは、たとえばトマトに含まれるフラボノイドの一種でクロロゲン酸があります。

第5グループは免疫強化の働きをする化合物で、ガン細胞のような異物としての生体から身体を守る免疫能力を強化するものです。エキナセア(Echinacea)のようなハーブ類の多くにはナチュラルキラー細胞(これは文字通りガン細胞に噛みついて穴をあけて殺します)の数を増加させる働きをするという証拠があります。また、これは、抗ガン「ホルモン」であるインターフェロンの生産促進剤としての働きもします。植物の繊維の中に含まれるある種の成分には、たとえばペクチン多糖体のように、同じような働きをするものがあります。ある種のキノコ類と真菌類もこの仲間です。

消化管内部に住むある種のバクテリアのように免疫機能を強化すると報告されているものがあります。乳酸桿菌やビフィズス菌のように生きたヨーグルトの中に見られるバクテリアです。これは生きたヨーグルトを食べれば腸管内で増加します。これらの菌類は、オリゴ糖のような乳酸桿菌が好んで食物とするものの中でも繁殖します。

コエンザイムQ10は正確に言えば免疫強化物質とは言えませんが、すでに述べた各種の免疫強化機能をもつ物質と連携して働く場合に有効なものです。免疫機能に関わる細胞のエネルギーを補強する働きと考えられます。

抗ガン栄養素としての第6グループは隣接する細胞間のコミュニケーション保つ物質です。ガン細胞を自分勝手に増殖して暴れさせず、おとなしくさせておく働きをします。カロテノイド類がこのグループの中核をなしています。コショウ、ニンジン、茄子、かぼちゃなどの黄色やオレンジ色の食用植物、あるいは暗緑色の野菜の葉に多く含まれています。

第7グループはガン細胞の成長阻害の働きをする物質で、この働きは単純ではなく、いろいろの働きを見せます。しかし、このグループに属するすべての物質は腫瘍の成長を抑止する能力をもっています。腫瘍の新生血管の成長を阻害するか、あるいは、腫瘍の転移を阻害します。このグループに入るものとしては、プロテアーゼ阻害物質としてガン細胞のタンパク分解を阻害する物質(たとえば豆類に多く含まれる)、フラボノイドのように細胞外マトリックスを安定させる働きをする物質(ぶどうの種松の樹皮、マルメロなどに含まれる)およびフラボノイド類似物質(ハーブ類に含まれる)などがあります。さらに、大豆に含まれるゲニステインのような新生血管の形成阻害物質と鮫の軟骨に含まれる糖タンパク質もこのグループに入ります。

第8のグループには酪酸塩を入れなければなりません。酪酸塩は単純な脂肪酸で、大腸に住むバクテリアの中で人の健康のためになるビフィズス菌で、酪酸塩よって大腸内で生産されます。ビフィズス菌はイヌリンあるいはオリゴフラクトーゼなどの化合物を分解します。オリゴフラクトーゼはアーテイチョーク(チョウセンアザミ)その他の食品にも含まれています。酪酸塩には結腸分化異常を発生させる能力があり、大腸ガンの進行をくい止める重要な働きがあります。興味のある事実ですが、水溶性の食物繊維は少なくとも実験動物については乳ガンを防ぐ効果が認められています。酪酸塩または類似物質は、体内における他の多くの部位において抗ガン効果がみられます。

筆者は、この長いリストの中で、抗酸化物質をリストの最初に記しましたが、これらは抗ガン化合物の数多い仲間の中の1つに過ぎません。従って、身につけた悪い食習慣の埋め合わせとして、抗酸化食品の栄養補助サプルメントでごまかそうという考えには賛成できません。何百種のカロテノイドと何千種のフラボノイド、それに加えて、まだ解明されてない無数の化合物が存在していますので、確かに少々混乱状態にはあります。しかし別の見方をしてみれば、その分だけ、新しい将来の展望があるのだとも言えるわけです。

人体は、一生を通じて、体細胞が死んでは増え、増えては死ぬという新旧交代を繰り返しています。細胞が分裂するときは、DNAができるだけ正確にコピーされます。しかし、これもまた時には間違いも起こり得るのです。そして、このコピーの間違いは細胞死あるいはガン細胞の制御不能な増殖をもたらします。事態をいっそう悪くするのは、われわれは常に低レベルの放射線を受けていて、それを避けるわけにはいきません。従って、体細胞も常に放射線に暴露されているわけです。計算によると、細胞中のDNAが1日に受ける放射線の量は1千単位になるとのことです。そのため、人間は放射線による被害の修復システムを持っており、そのシステムも非常に良くできていて、常に働いてはいるのですが、完璧というわけにはいきません。従って、年を取るにつれてDNAエラーが少しずつですが着実に積み重なります。というわけで、身体のどこかの細胞には間違ってガン化するものが出てきます。このエラーは加齢とともに増加します。遺伝的エラーが重なり、修復機能も年とともに鈍化するのはやむを得ません。

免疫機能を持っているのは幸運と言うしかありません。それが正しく機能している限り、こうして発生したガン細胞を早期発見し、退治します。しかし、いつでも正しく機能するという保証はありません。たとえば、免疫抑制薬剤、栄養不良、またはHIV(免疫不全ウイルスによる)などによってこの免疫機能に被害を受けた場合、ガン罹患率は有意に増加します。免疫だけではなく、食習慣もまことに重要です。前述の予防食品のリストからお判りのように、われわれの細胞は、言ってみれば、摂取する食品から生まれる様々な化合物の海の中で泳いでいるようなものなのです。ですから、摂取する食品こそが人体の重要な防御網の1つなのです。その意味で、食品を軽視すると大きな「ツケ」が後で回ってきます。

抗ガン化合物の多くが果物と野菜に由来するという事実をご記憶なら、菜食主義者のガン罹患率が低い理由が理解できると思います。では、さらにもう一歩踏み込んで、キーとなる抗ガン化合物とは何か、どこで入手できるのか、さらに、それらをどのように組み合わせれば良いのか、などを検討してみようではありませんか。

まず最初は理論です。抗ガン物質とは何か、それはどのように働くのか、などについて少し触れて、それから、実践です。実践では、科学に基づく抗ガン食のメニューです。結構おいしく、また読者が想像するほど難かしくはありません。

第九章 ベジタリアンにはガンが少ない

クレイトン博士の「英国流医食同源」 ~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~(翻訳版)の内容を転載しています。

当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~』の内容を転載しております。

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