ガンに対する兵糧責め
このような働きをする化合物は、自然で、効果的で、無毒性の抗ガン物質として極め付きの有望株と言っても過言ではありません。鮫の軟骨、大豆に含まれるゲニステイン、硫化グリコサミノグリカンとして知られる巨大分子、自然物としてのコルチコイド、特にテトラヒドロコルチソルなどがこの物質の仲間です。副腎で生産されるテトラヒドロコルチソルは副腎皮質ホルモンの1種ですが、他のホルモンの助けなしでも強力で、人体が自然に生み出す抗腫瘍剤とさえ呼ばれています。
転移とは、それによってガンが体内に広まり、第2次ガンを体内の他の部位に発生させるプロセスですが、この転移のプロセスは前述の成長のプロセスとは全く違います。ガンが転移する場合、まず、最初に行わなければならない仕事は、細胞外マトリックスの突破です。この細胞外マトリックスは密度の高い繊維組織からできている構造で、体細胞のすべてを結合させ、それぞれの部位に繋ぎ留めている組織です。この強固な構造を突破するためにガン細胞が行うのは、そのマトリックスを溶かす能力を持つMMP(マトリックス金属プロテアーゼ)と呼ばれる酵素を分泌することです。
このマトリックス構造には、3つの繊維状物質があり、それぞれコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸と呼ばれています。ヒアルロン酸はグルコサミノグルカンとプロテオグリカンなどの高分子物質由来の物質です。ガン細胞の武器としてのマトリックスを溶かす酵素は単一ではなく、一連の酵素です。コラーゲンに対してはコラゲナーゼ、エラスチンに対してはエラスターゼ、ヒアルロン酸に対してはヒアルロニダーゼと、それぞれ対応する相手が決まっています。
これらの酵素の破壊力はとても強力で、もしガン細胞がこれら酵素を活性化した状態で分泌すれば、ガン細胞自身が破壊されるほど強いのです。しかし、ガン細胞は、これらを不活性な酵素の形で分泌しますので、ある種の安全装置が働いており、ガン細胞自身の破壊は起こりません。しかし、1度ガン細胞からの分泌が完了すれば、こんどはプロテアーゼと呼ばれる第2次酵素グループがその安全装置を取り外して、マトリックス金属プロテアーゼを活性化します。
プロテアーゼの代表的な例は2つあって、1つはトリプシンで、2つ目はプラスミンです。ある種の植物由来の化合物はこれらの酵素の働きを抑制する能力を持っています。また、細胞外マトリックスの繊維の周囲に集まって、マトリックスを守る防壁として、マトリックス金属プロテアーゼの攻撃から守るものもあります。
マトリックス金属プロテアーゼは、新生血管の形成にも関連します。ある意味では、新生血管の形成は、それ自体がガンの成長とも見なされるからです。そのプロセスは、細胞を動き回らせ、細胞外マトリックスを通過させますが、まずマトリックスの破壊がなければ、そのような「通過」は起こらないからです。このことは、マトリックスを守り、マトリックス金属プロテアーゼ酵素を阻止する植物由来の化合物には二重の役割があることを意味します。ガン細胞の広がりを阻止するのみならず、腫瘍に対して栄養を補給する新生血管の形成を阻害します。つまり、腫瘍に対する「兵糧責め」なわけです。
腫瘍がひとたび成長し始まれば、ゲニステインとマトリックス金属プロテアーゼ阻害因子、それにマトリックス保護物質の3種の組み合わせは、それぞれの単独使用の場合よりはるかに強い効果になります。これに追加して、免疫強化の目的でエキナセアかエレウテロコカス、さらに生体エネルギー強化のためにコエンザイムQ10を加えれば、取りあえず万全と言えましょう。
クレイトン博士の「英国流医食同源」 ~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~(翻訳版)の内容を転載しています。
当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~』の内容を転載しております。