ガンと戦うには20倍の栄養摂取が必要?
各種の栄養素の最大摂取量を決める1つの方法は、臨床テストの結果を検討することです。ビタミンの大量投与の臨床テストは相当の数の人々を対象として行われています。ほとんどすべての研究は特定の栄養素を対象として行われますので、すべての栄養素についての事情は必ずしも明確ではありません。その意味では、アクセス可能な情報には限界があるのは当然です。しかし、ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチン、セレニウムなどについては研究が特に進んでいます。対象とする病気の方も、当然ながら限定されますが、冠状動脈疾患やガンなどについては、かなりの程度わかってきています。しかし、これらの研究は、研究の対象となった栄養素が本当に病気を防ぐのに役に立つのかどうか、健康増進に積極的役割を果たしているのかどうか、という点についての情報としては充分役に立つものと考えます。
アメリカの研究でもっとも意味深いものの1つに、冠状動脈疾患に対してビタミンEの一日当たり100ユニット(IU)を超える投与によって発症を50%に減らしたという研究があります。ビタミンEもこれだけの量を用いれば、これまでのところで製薬業界から登場したいかなる薬品によるものよりもはるかに優れた結果を出せるのです。心臓発作予防薬として開発されたコレステロール低下剤の効果がわずか3%から4%なのを考えると、専門薬の効果はビタミンEの10%以下にすぎないことになるわけです。しかも、このような薬剤には副作用の可能性もあり、価格もはるかに高価ですから、あらゆる点でビタミンEの方に軍配があがります。
ビタミンEの投与量についてもっとくわしく見ることにしましょう。100ユニット(女性の場合はおそらく200ユニットになります)というのは、現在のアメリカのRDAがわずか15ユニットですから、その点だけで考えると膨大な量の投与ということになります。イギリスの場合は、事情はさらに悪く、RDAの数字さえありません。この点では、残念ながらイギリスは時代に何年も遅れていると言わざるを得ません。
同様にアメリカの実例を探してみますと、もっと昔の例ではありますが、心臓疾患とビタミンCの関係についての臨床テストがあります。このケースでは、一日600ミリグラムの投与でした。ちなみに、イギリスのRDAは一日わずか30ミリグラムに過ぎません。従って、600ミリグラムというのはイギリスのRDAと比べれば20倍の量です。日本では50ミリグラムと聞いていますので、イギリスよりは少しだけ状況は良いとは言えますが、大した相違とは言えません。50歩百歩の僅差で、どちらも臆病のサンプルには違いがありません。因みに、タバコを一本吸うと約25ミリグラムのビタミンCが消費されます、日本のRDAは、わずかタバコ二本で消費されてしまいます。
ビタミンBについても問題です。最近の研究でB群についてのものですが、次のような結果があります。すなわち、ビタミンB群をRDA量投与したにもかかわらず全く病状の改善が見られず、それどころか生化学的見地からみて明らかにB群欠乏症を示している。それも、代謝から考えて、テキストブック通りの冠状動脈疾患が刻々と深刻化しているというケースまで見られるのです。
こういった研究結果を見るにつけ、筆者としては、RDAには全く根拠がなく、信頼性にも欠けるものと考えます。自分自身の健康を保つために、どれだけの量のビタミンCあるいはビタミンEを摂るべきかの決断の根拠は、これらの研究結果がある程度のよりどころを与えてくれます。従って、短期的な使用のための決断は容易です。しかし、問題は長期的な使用です。どれだけ長期間継続しても良いのかが問題です。この疑問に対して、これらの臨床テスト結果は何も答えてはくれません。ましてや、亜鉛、マンガン、銅その他多くのミネラル類とビタミン類については何も明確には語ってくれません。
RDAに対する信頼は、栄養学者が次々と新しい栄養素を発見するに及んで、ますます失われていきます。これらの新栄養素は多くの点でビタミン様の物質なので、全体としての人間の健康についてビタミン同様に重要と思われます。例えば、ヒドロキシカロテノイドはベータカロチンやビタミンAに強く関連していると思われます。従って、健康に大きく関係していると考えられます。これには100種類以上の化合物があり、そのいくつかは血液中の脂質を活性酸素から守るのに非常に有効な働きを示します。その仲間の1つであるルテインは少なくともビタミンEの10倍の効力があることが明らかになっています。ルテイン以外の仲間も免疫強化と抗ガン性があると考えられています。
また、ビタミンP(フラボノイドとも呼ぶ)という一群の植物由来の化合物があります。これはポリフェノールの仲間で、多くの果物や野菜に含まれています。これには一連の医学的な治療効果さえ認められています。そのいくつかは、毛細血管の機能を正常に維持するという働きをします。また、別のいくつかは低酸素症を防ぎます。ビオフラボノイドの多くは抗酸化物質であり、これら化合物の摂取が増加すると冠状動脈疾患が減少することが明らかになっています。体内に吸収されて、体内でその治療効果を発揮するものもあり、消化管内に留まって機能するものもあります。後者はおそらくビタミンCやビタミンEのような抗酸化物質を消化液によって破壊されないように防る役割をすると考えられています。
カロテノイドやビオフラボノイドはすべて植物由来の物質です。特に、果物と野菜に多く含まれます。従ってフィトケミカル(植物由来の化学物質)と呼ばれています。カロテノイドとビオフラボノイドの2つの化合物をとっても、その仲間だけで400種類以上を数え、これら2つの仲間以外で知られているのはわずか5種類に過ぎません。それぞれに多くの化合物があり、いずれもわれわれの健康を守る働きをします。サポニン、フィトステロール、イソフラボン等はいずれもその抗ガン、抗心疾患効果のために、現在のところ研究が集中的に行われています。これまでに判明している結果では、いずれも非常に有望視されています。
クレイトン博士の「英国流医食同源」 ~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~(翻訳版)の内容を転載しています。
当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~』の内容を転載しております。