害のない最大栄養という概念
これだけの数の、「健康に良し」とされる栄養素が新しく発見され、しかも利用が可能になりつつある現在、これらのすべてについて、科学的に究明してゆくことは科学者にとって可能なのでしょうか。特に、健康に最も望ましい食生活を明らかにし、あらゆる栄養素の最大使用量を特定するという作業は現実に可能なのでしょうか。筆者には、すべてを完璧に究明するにはあまりにも複雑過ぎると思われます。アメリカのアラバマ大学医学部のエマニュエル・チェラスキン教授とウオーレン・リングドーフ教授の二名により、従来の栄養素の「必要最小レベル」という考え方に決別し、その「害のない最大レベル」の追求が、世界で初めてスタートしました。積極的に栄養素を摂取することによって最大限の健康を確保しようとする前向きな姿勢によるものです。
その第一歩は、1つの驚くべき事実から始まったのです。アメリカでは、お金さえ出せばおそらく世界最高レベルの医療を受けられるのですが、それでさえ60才代の人々にとっては6人のうち5人は、何らかの重篤な変性疾患に罹ります。この数字は決して人を勇気づけるような性格のものではありませんが、それでも5人のうちの1人は60代を生き抜くわけです。そして、さらに70才以上まで健康を保つわけです。両教授は、この事実、つまり5人のうちの健康を保つ1人と、健康を保てない4人との差が何によるのかに注目し、その後15年を掛けて、アメリカの六つの異なった地域に住む1万3千5百名の人々を対象として、そのライフスタイルと健康状態を調べたのです。年はとっても健康を維持するための要因を明らかにするのが目的であったことは言うまでもありません。
経済的側面から見れば、両教授の研究は200万ドル(約2億4千万円)も掛かりましたが、驚くべき量の情報が得られたのです。4万9千ページにわたるデータが集まり、それを135冊にまとめました。さらにそれからおよそ100の学術論文にまとめて、今からおよそ20年前に学会に提出しました。このような大量のデータ・ベースを基に、それから現在に至るまで、次々と論文が生まれつつあります。これは今後もしばらくは続くと思われます。その意味ではまだまだ未完成とも言えます。しかし、中間点で概観すれば、その内容は恐ろしいほど明白です。要するに、健康な年寄り達の食生活が違うのです。平均的アメリカ人よりも摂取する栄養素の量的レベルが高く、しかも長期間継続しているというのが大きな相違点です。
両教授は早速、健康グループの食事について栄養的な内容の分析に取りかかりました。そして、得られた結果を「新しいRDA」として数字をまとめたのです。従来のものと異なる点は先ずその名称です。もはやRDAとは呼ばずSONA(Suggested Optimal Nutrient Allowance)、つまり「推奨最大摂取量」という考え方です。もちろん、この話はSONAだけで終わるわけではありません。というのも、ニュズウィーク誌の1995年5月号に発表された記事にあるような、植物由来の化学物質(フィトケミカル)のように、ごく最近発見されたものはSONAには入っていないからです。とは言うものの、両教授の業績は高く評価されるべきです。「最大栄養による最大健康」という新しい前向きなコンセプトの導入と、今後進むべき方向性を明確に示してくれたからに他なりません。
筆者としては、おそらくSONAの数値は「正解」と考えます。その理由ですが、実は、SONAによるビタミンCの摂取量は一日当たり400ミリグラムとされています。一方、最近のことですが、いわゆる未開地で「原始的生活」を営む人種(果物と野菜の摂取が非常に多いのですが)の摂取するビタミンCの摂取量が調査研究されたのです。これらの人々のビタミンC摂取量は、現在先進国と称される国々において都会生活を営む人々の摂取量よりはるかに高く、計算の結果がなんとSONAの数字と正確に一致しているからです。 SONAが定めたビタミンCの摂取量は、少なくとも人類が、気が遠くなるほどの長い時間を掛けて進化してきたその過程で、かって一度は慣れ親しんだビタミンCの量、つまり、人間が本来そのように設計された設計値に沿っているのではないか、と筆者は感じる次第です。
クレイトン博士の「英国流医食同源」 ~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~(翻訳版)の内容を転載しています。
当コンテンツは、現代人の食生活に関する問題や身体を守る抗酸化物質に関する豊富な研究結果を元に、多くの消費者の誤解の本質を解き、健康な食生活の実践を啓蒙している、論文『クレイトン博士の「英国流医食同源」~発ガン性物質があふれる現代を賢く生きる~』の内容を転載しております。